84歳のマルコ・ベロッキオが、圧倒的な衝撃作と共に映画界に舞い戻ってきた。教会によるユダヤ人少年誘拐事件という前代未聞の史実「エドガルド・モルターラ誘拐事件」を題材とした新作に寄せたインタビューが解禁された。
本作は、スピルバーグが映像化を断念した「エドガルド・モルターラ誘拐事件」に迫った衝撃作。青年期エドガルドを演じたイタリア最旬俳優レオナルド・マルテーゼ(『蟻の王』)が「今まで出会った中で、最も知的でスマートな人だ」と仰ぎ見る、まさにイタリア映画界最後の巨匠が、最新作で描いたものとは。
―なぜ、「エドガルド・モルターラ誘拐事件」を映画化したいと思ったのでしょうか。
「実際に起きたこの史実に、強く惹かれるものがありました。何より、当時のカトリック教会という絶対権力による、”由来は知れずとも、洗礼を受けた子どもはカトリック教徒なのだ”という絶対原理の名のもとに行われた誘拐事件—即ち犯罪について描くことができるのですから。心から、誠実に描きたいと思った題材の一つでした」
―主人公エドガルドは「洗礼を受けた」という情報だけで誘拐され、親元から離れキリスト教の教育を受ける生活を余儀なくされます。今では考えられないことです。
「エドガルド・モルターラの誘拐は、権威を重んじる平和な上中流家庭に対する犯罪でもありました。エドガルドが当時暮らしていたボローニャにおいては、国王としての教皇の権威が尊重されていましたが、だんだんとリベラルな原理が至る所で肯定されていき、すべてが変化しつつありました。権威の崩壊を食い止めようと、教会側は強硬的な姿勢を崩さず、エドガルドの返還に応じようとしませんでした」
―少年期エドガルドを演じたエネア・サラから、青年期エドガルドのレオナルド・マルテーゼの違和感のない移行に驚きました。特にエネア・サラの演技には涙を禁じ得ませんでした。
「2人ともオーディションで選ばれた俳優です。特に少年期エドガルドを演じるエネア・サラは、これまで演技の経験もなく、教会に足を踏み入れたこともなかった7歳の男児でしたが、エドガルドの境遇に心から寄り添い、その複雑な内面や葛藤を自分のものにしていました。その点においては、両親を含めた周囲のキャストが真のプロフェッショナルであったこともプラスに作用したと思います」
―「エドガルド・モルターラ誘拐事件」は当時世界中で議論を巻き起こし、イタリア統一運動にも大きな影響を与えたという説もあります。
「大きな歴史の中にある、ある一個人の運命を描いた映画です。当時の絶対権力によって、人生を予期せぬものにされた人物が主人公ですが、自分たちの周りには存在せず、想像すらできなくとも、そのような人生を現実に歩んだ人がいるということに思いを馳せるきっかけにもなるでしょう。また、イタリア統一後、ローマが解放されてからのエドガルド自身の選択についても、興味深いものと言えると思います。この映画をご覧になった方がどのような感想を持つのか―。気に入ってもらえることを心から望んでいます」
4月26日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、T・ジョイPRINCE品川他にてロードショー